左右対称型キーボード専用かな配列「ブリ中トロ配列」

成熟の域に達しつつあるブリ中トロ配列。「あ」「お」「つ」をすべて単打にした 2020/10/23 版は非常に使いやすく、そこから小書き長音拡張など小改良を加えたバージョンを運用中。新しく知った人もこの記事だけ読んで理解できるように、2020/04/30 版を修正した全文を再掲するよ。

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名称

TRONかな配列を中指シフト化したものをベースに、ハイブリッド月配列のエッセンスを加えて煮詰めたから、「ハイブリッド・指シフト・トロン」で「ブリ中トロ配列」。

TRON かな配列が出発点であり、月配列とは系譜がまったく異なるので、月にまつわる名前は付けなかった。

前提条件

  • キーボードは、物理配列が左右対称である。
  • ユーザーは、各指の運動能力に極端な偏りがない。
  • キーボードは、ユーザーの指の可動範囲に合った大きさである。
  • ユーザーは、ですます調の現代文を少ない打鍵数で入力したい。

設計方針

  • 記号を除き30キー(片手3段5列)の範囲に収める。
  • 現代日本語の書き言葉に現れるすべてのモーラを2打以内で入力する。
  • 同じ指で異なるキーを続けて打つ運指(同指異鍵・同指跳躍)をできるだけ減らす。
  • 両手の各指の負担率をできるだけ左右対称にする。
  • Google 日本語入力のローマ字定義のみで実装し、その他の常駐ソフトやハードを要求しない。
  • カーソルや [Backspace] などの制御キーは考慮しない。それらは別のレイヤーで適切に設計されるものとする。

シフト方式の設計

非拗音面と拗音面を完全に分けて考える。

非拗音面のシフト方式

非拗音面は前置シフトで、シフトキーは [D] [K] の2種類。同手シフトと逆手シフトを区別する。清音と濁音は原則として同じキーに置く。例:

  • [O] =「く」
  • [DO] =「や」
  • [KO] = 「ぐ」

拗音面のシフト方式

拗音面は後置シフトで、シフトキーは [T] [Q] [Z] の3種類。これらが2打目に来た場合、直前の1打目をキャンセルして子音に読み替え、2打目を母音と見なし、両者の組み合わせで1モーラの拗音を入力する。言い換えると、拗音に限って行段式とする。拗音面の子音配列は、非拗音面の清音配列とは無関係に、頻度と打ちやすさによって決める。例:

  • [OT] =「じゃ」
  • [OQ] =「じゅ」
  • [OZ] =「じょ」

この例だと、1打目に [O] を打った時点では「く」が表示されるが、2打目に [T] を打つと「く」が消えて「じゃ」に変わる。この動作は Google 日本語入力のローマ字カスタマイズで実装できる。

さらに、2打シーケンスである [D;] [DA] も後置シフトとして扱う。これらが2~3打目に来た場合、「ゅう」「ょう」で終わる2モーラの拗音を入力する。これにより、「ゅ」「ょ」の7割近くを占める「ゅう」「ょう」をホームポジションで打てるようにする。例:

  • [OD;] =「じゅう」
  • [ODA] =「じょう」

配字の設計

ユーザーの手に合った左右対称なキーボードを前提とする。つまり、ユーザーは標準的なホームポジションに無理なく指を置き、上段にも下段にも無理なく指が届き、左手と右手をまったく同じように使うことができるものとする。この前提のもとで、以下のように配字を決めていった。

句読点

中指シフトキーの単打を句読点とする。これはハイブリッド月配列から拝借したアイディアで、読点の直後に必ず変換/確定しなければならない(読点に続けて文章を打つことができない)反面、キーを2個も節約できる。

  • [D] =「、」
  • [K] =「。」

撥音・促音・長音

「ん」「っ」「ー」は右小指に置く。撥音・促音・長音の前には他のすべてのかなが先行しうるので、これらを独立性の高い小指に置く TRON 配列の思想は理にかなっている。「んっ」「ーっ」といった連接は書き言葉に現れないので「っ」は下段でよい。「ー」は、TRON では [Shift+K] だったが、1打で書きたいので右小指外側 [:] の位置とする。

  • [;] =「ん」
  • [:] =「ー」
  • [/] =「っ」

拗音

「ゃ」「ゅ」「ょ」は左手の三隅 [T] [Q] [Z] に置く。拗音の頻度は3つ合わせても3%程度だが、すべてのモーラを2打以内で入力するという目標のために単打とせざるを得ないので、なるべく邪魔にならない場所に置く。

  • [T] =「ゃ」
  • [Q] =「ゅ」
  • [Z] =「ょ」

「ゅう」「ょう」は [D] から始まる2キーシーケンスを割り当てる。頻度はそれぞれ0.6~0.8%程度である。

  • [D;] =「ゅう」
  • [DA] =「ょう」

これらの拗音キーに先行する子音キーは、頻度の高いものから順に打ちやすい位置を割り当てていく。

清音

TRON かな配列をベースとして、前置シフトキー [D] [K] と後置シフトキー [T] [Q] [Z] を避けるように再配置する。

左手側は TRON からあまり変わっていない。単打面から「に」「ら」「り」を外し、打ちやすさと負荷バランスを考えて配字を入れ替えた。シフト面には右手から「け」「む」「め」が移ってきた。

一方、右手側はかなり変わっている。単打面から「、」「れ」「を」を外し、「お」「ち」「に」「ー」を単打面に入れた。シフト面には左手から「ゆ」「り」が移ってきた。

「を」は助詞専用であり、他のすべてのかなに連接することから、[DK] でも [KD] でも入力できるようにして運指の自由度を高めてみた。つもりだが、実際には [DK] ばかり使っているような気がする。

濁音・半濁音

バ行以外の濁音はすべて清音と同じキーに置き、頻度が高いものは逆手シフト、低いものは同手シフトとする。

パ行はハ行と同じキーで同手シフトとする。

バ行とファ行は、覚えやすさと打ちやすさのバランスを考えて行段的に配置する。ここがブリ中トロ配列で一番トリッキーな部分だが、下表のように整理すれば分かりやすい(横が1打目、縦が2打目)。

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ここまでのまとめ

  • 単打
    ゅことさゃ つきしくち
    たか、ては のい。うんー
    ょまなるも おすにあっ
    
  • 逆手シフト
    へねどめふ ※ゆじや※
    だがをでむ ばわをえュウ~
    ひそせけほ ぼろみ※※
    
  • 同手シフト
    ぺごぬざぷ ※ぎぢぐ※
    ョウら よぱ ファり れ※/
    ぴぞぜげぽ フォず※づ※
    
  • 拗音シフト
     み※    ぎちじ 
        ひ ※き し 
     に びぴ ※り ※ 
    

※は以下で説明する。

外来音

空いている場所に押し込む。

  • [EZ] =「うぃ」, [EQ] =「うぇ」, [ET] =「うぉ」
  • [KP] =「しぇ」, [KY] =「とぅ」, [K/] =「てぃ」, [K,] =「ちぇ」
  • [DP] =「じぇ」, [DY] =「どぅ」, [D/] =「でぃ」

小書き文字

小書き文字「ぁ」「ぃ」「ぅ」「ぇ」「ぉ」は、口語文で長音を表現する場合と、外来音を原音通りに表記しようとする場合に使われる。いずれにせよ使用頻度が極めて低いので、どんな配置にしようがどうせ覚えられないのが問題だ。

前者の場合については、[K;] を後置シフトとして扱い、直前の母音に応じた小書き文字を用いて長音を表現する「小書き長音拡張」を導入した。これにより、1モーラ2打以内の原則を堅持しつつ、覚えるキーシーケンスをひとつで済ませることができた。例:

  • [OK;] =「くぅ」
  • [DOK;] =「やぁ」
  • [OZK;] =「じょぉ」

後者の場合については、スマートな対応を諦めた*1。「ばいおりん」を変換したら「ヴァイオリン」が候補に出てくるし、「ツァラトゥストラ」を毎日書くなら「ちゃらとすとら」で単語登録すればいいじゃないか。

ショートカット

ですます調の文章では「です」「でした」「でしょう」などが頻出する。特に「で」の5割以上を占める「です」が3打鍵となるのは辛い。そこで、救済措置として「です」を2打鍵で入力できるようにする。

  • [D.] =「です」

清濁同置の原則を緩めて「で」を単打にする案も試したが、結果的には清濁同置のほうが良かった。「て」「で」の頻度はどちらも約2.8%であり、清濁別置にすると両方を単打面に置くことになるが、どちらかをホームポジション外に置かざるを得ず、打ちにくい運指が頻出するようになってしまった。それよりは、「で」をホームポジション内の2打鍵で入力し、特に頻度の高い「です」に救済措置を入れるほうがマシだと思う。

「です」以外にも、空いているキーシーケンスに適宜ショートカットを定義した。

  • [HT] =「ぷろぐらむ」
  • [NT] =「ぷろじぇくと」
  • [HZ] =「いただ」
  • [NZ] =「おもいま」
  • [HDA] =「けんきゅう」
  • [NDA] =「じょうほう」
  • [.Z] =「ください」
  • [.DA] =「でしょう」

このへんはユーザーの個性(職業?)が強く現れるところだろう。各々がよく使う打ちにくい字句を定義すればよい。

評価

負荷分布

国立国語研究所 現代日本語書き言葉均衡コーパス のうち「出版・書籍」「特定目的・Yahoo!知恵袋」の各上位1万語彙を用いて各キーの負荷を解析した。

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左手と右手の負担率はコーパスによって異なるが、ほぼ 49:51 である。各指の負担率は、小指 6~7%、薬指 9~10%、中指 17~18%、人差指 16~17% 程度である。負担率をできるだけ左右対称にするという設計方針を実現できた。

定量評価

京都大学 学術情報メディアセンター 大規模テキストアーカイブ研究分野 のウェブサイトで配布されている、BCCWJ(コアデータ)コーパスから生成された仮名漢字変換用 2-gram の上位1万語彙を用いて評価した。打鍵効率は1文字の入力に必要な平均打鍵数、同指跳躍率は上段キーの直前/直後に下段キーを打つ率である。

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ブリ中トロ配列 2021/01/26 版は、清濁同置・前置2シフトという単純な(効率向上には不利な)設計ながら、打鍵効率 1.22、同指異鍵率 2.9%、同指跳躍率 0.3% を達成した*2。打鍵効率 1.22 は、31キーに収まる逐次シフト配列として最善に近く、これをさらに改善しようとすれば、隅っこの打ちにくいキーを多用するしかないだろう。同指異鍵率 2.9% と同指跳躍率 0.3% はいずれも、TRON かな配列やハイブリッド月配列に比べて大幅に改善されており、悪運指の少ない配列であると言える。

まとめ

ブリ中トロ配列は、左右対称なキーボードを前提とした高効率なカナ入力方式であり、

  • 1モーラ2打鍵以内
  • 打鍵数が少ない
  • 悪運指が少ない
  • 負荷分布がシンメトリー
  • 記号を除き30キー(片手3段5列)に収まる
  • Google 日本語入力のローマ字定義で実装可能

という特徴をもつ。作者はNISSEμTRONキーボードで使っているが、ユーザーの手に合った左右対称レイアウトを自由に作れる自作キーボードにも適していると思う。

ダウンロード

Google 日本語入力のローマ字定義ファイルと、この記事で使った評価用スクリプトが置いてあるよ。

https://github.com/mobitan/chutoro

*1:本当に必要なら、拗音面の空いているキーを適当に割り当てればよい。

*2:同指跳躍率の計算方法を見直したため、2019/10/22 版の記事とは比較できない。本記事では [R] [T] [V] [B] [Y] [U] [N] [M] を人差指にカウントしている。一方、2019/10/22 版の記事では [R] [V] [U] [M] を人差指にカウントしているが、[T] [B] [Y] [N] をカウントしていなかった。